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名古屋高等裁判所 昭和42年(う)552号 判決 1968年3月07日

本店所在地

名古屋市中区丸の内二丁目一六番一一号

繊維製品製造販売業

高田株式会社

右代表者代表取締役

鬼頭元彦

本籍

同市東区筒井町四丁目五四番地

住所

同市中区丸の内町二丁目一六番一一号

会社代表取締役

鬼頭元彦

昭和五年一月二日生

右両名に対する旧法人税法違反、法人税法違反被告事件について、昭和四二年八月二六日名古屋地方裁判所が言渡した有罪判決に対し、弁護人から適切な控訴の申立があつたので、当裁判所は、検察官船越信勝出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告会社を罰金四〇〇万円に、被告人鬼頭元彦を懲役一年及び罰金二五〇万円に各処する。

被告人鬼頭元彦が自己の罰金を完納することができないときは、金五、〇〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

但し、この裁判確定の日から三年間、被告人鬼頭元彦の右懲役刑の執行を猶予する。

当審における訴訟費用はこれを二分し、その一を被告会社の他の一を被告人鬼頭元彦の各負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人蜂須賀憲男、同西村諒一連名の控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここに、これを引用する。

論旨第一(一部実事に関する事実誤認及び法令適用の誤り)について。

所論は、(一)原判示第一の実事につき、原判決が期末商品棚卸高の公表計上洩れの犯則益金と認定した金額のうち、金八七七、一〇四円(原判決別紙第一表の一第一期所得額計算書記載の下請先マリーレデイーメードにあつた仕掛品の不計上分)及び原判示第二の事実につき、原判決が同様認定した金額のうち、金四六九、五〇〇円(原判決別紙第二表の一第二期所得額計算書記載の被告会社東京支店へ積送分の不計上分)と金一、一九五、〇〇〇円(同上計算書記載の原材料の不計上分金一、九三二、八〇二円のうち)は、いずれも、故意に公表の棚卸高に計上を洩らした益金ではないから、以上の諸点において原判決には事実の誤認があり、また、(二)原判示第一の事実につき、原判決か報酬給料の過大公表犯則損金と認定した金額のうち、金二、五八〇、〇〇〇円(前記第一期所得額計算書記載の役員報酬を期首に遡つて支給したものとある分)は、昭和三八年一二月の株主総会はおける遡及増額支給決議を経た適正な役員報酬であるにも拘らず、原判決が右決議の時期のみを問題として、これを役員賞与であると判断したうえ、過大公表犯則損金と認定したのは、法人税法一三二条の適用を誤つたものであるから、右の点において原判決には法令適用の誤りがある、というのである。

そこでまず、右(一)の事実誤認の主張について、記録を調査検討するに、原判決の挙げている関係各証拠によると、所論の商品等は、いずれも各期末の柵卸期日に被告会社に現に在庫していたものであり、すべて被告人鬼頭元彦の指示ないし、その諒承のもとに、故意に柵卸の計上から除外したものであることを明認することができ、以上の事実に関する原判決の認定に、所論のごとき誤認のかどがあることを見出すことはできないから、右(一)の主張は採るを得ない。

次に、右(二)の主張について考察するに、原判決の挙げている関係各証拠によると、被告人鬼頭元彦は、当該事業年度の決算期(昭和三八年一〇月期)後、しかも確定申告書提出直前に至つて、利益の出すぎたことを知り、法人税を免れる意図のもとに、所得を秘匿する一方法として、昭和三八年一二月の被告会社の株主総会の決議を経たうえ、期首にまで遡つた役員報酬増額支給の形式を仮装して、従来の役員報酬総額を上廻る実質上の役員賞与金二、五八〇、〇〇〇円を支給したものであることを認定するに十分である。そして、右認定のように、事実を仮装するなどの不正な方法により、所得を秘匿する場合には、かような行為は、税法の前提である真実性の原則に基づいて当然に否認されるのであつて、それがためには、同族会社の行為計算の否認を規定した所論法人税法一三二条のごとき特別規定を要するわけではない。従つて、本件につき、右法人税法一三二条の適用を云々する所論は、正鵠を得ないものというべく、原判決が同条の適用について説示するところは、必ずしも首肯しがたい点があるが、ひつきよう蛇足であり、本件金員を役員賞与と判断のうえ、これを過大公表犯則損金と認定したのは正当であつて、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りは存しないものというべきである。それ故、右(二)の主張もまた、採るを得ない。論旨は理由がない。

論旨第二(量刑不当)について。

所論にかんがみ、更に記録を検討し、証拠に現われた本件各犯行の動機、態様、逋脱税額等、とくに、本件脱税の手段、方法が同種事犯に比し、著しく悪質とは認められないこと、犯行後修正申告をして、本税、重加算税等もすべて完納されていること、その他所論の事情を考慮に容れ、同種事犯との科刑の均衡をも考え合わせると、被告会社及び被告人鬼頭元彦に対する原判決の量刑は、いずれも、やや重きに過ぎるものと認められる。従つて、本論旨は理由がある。

よつて、刑訴法三九七条一項、三八一条に則り、原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い、被告事件について更に判決する。

原判決の認定した事実に、その摘示するところと同一の法条を適用して、被告会社及び被告人鬼頭元彦に対し、各主文の刑を量定処断することとし、被告人鬼頭元彦に対する罰金の換刑処分につき刑法一八条、同人の懲役刑の執行猶予につき同法二五条一項、当審における訴訟費用の負担につき刑訴法一八一条一項本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小淵連 裁判官 村上悦雄 裁判官 西村哲夫)

控訴趣旨書

法人税法違反

高田株式会社

鬼頭元彦

右被告人等に対する頭書被告事件につき昭和四二年八月二六日名古屋地方裁判所が言渡しに判決に対し、被告人等から申立てた控訴の理由は左記のとおりである。

昭和四二年一一月八日

右弁護人 蜂須賀憲男

西村諒一

名古屋高等裁判所 御中

原審は公訴事実どおりの事実を認定した上、検察官の被告人高田株式会社に対する罰金五〇〇万円及び被告人鬼頭元彦に対する懲役一年、罰金三〇〇万円の各求刑に対し被告人高田株式会社を罰金五〇〇万円、被告人鬼頭元彦を懲役一年執行猶予三年、罰金三〇〇万円に処する旨の判決を言渡した。

しかしながら、右判決は以下開陳する理由により、一部事実につき、事実誤認及び法律の適用を誤つたものであり、他方、その量刑著しく過重で不当であるから、到底破棄を免れないものと思料する。

第一、一部事実に関する事実の誤認及び法律の適用の誤りにつき、

(一) 公訴事実第一の関係

(1) 期末商品棚卸高(八七七、一〇四円也)

この商品については、下請先マリーレデーメード会社へ再加工(やり直し)のため引渡していた商品であり、従来の取引状況よりみて再加工(やり直し)に出すということは殆んど行なわれていなかつたため、帳簿の処理を過つて仕掛品として記載もれとなつたものである。かかる再加工は稀なケースで従来全くその例をみなかつた性質のものであつて故意にこの分につき棚卸高から除外したとみるのは明らかにうがつた見解である。

ちなみに右取引をみるに昭和三八年一〇月頃、高田株式会社は水野株式会社に対し表地一四反を加工下請先のマリーレデーメード会社への直送を依頼、加工をなさしめたのであるが、この際、帳簿の記帳は、水野株式会社より仕入高を仕入帳に記載するのみで、マリーレデーメード会社への加工依頼の発注伝票は出さない慣行になつていたものであつた。発注伝票を出さなかつたのは、大量の服地分から加工される既製服の枚数については、加工するマリーレデーメード会社の方で適当に加工仕上してはじめて明らかになる仕組になつていたからである。ところで右商品については、マリーレデーメード会社の方から加工商品を一たん納入したのであるが、その後、右商品の加工の悪いことが判明したため、再度マリーレデーメード会社へ再加工に出された。その際、従来の例にならい発注伝票を出さなかつたのであり、このことが故意に棚卸資産高を除外するための方法として取られたとするは、如何にも自然の事実を殊更歪曲するものに他ならない。

なお、再加工品は昭和三八年一一月下旬頃、再納入されており、この分の売上高は昭和三九年度分の決算で計上済のものである。(検察官提出証拠目録請求番号八二、伊藤芳男の供述調書及び被告人鬼頭元彦の公判廷での供述)

(2) 役員報酬給料(二五八万円)

この点に関する弁護人側の主張は、会社役員に対する従来の給料が、会社の規模、同種会社との比較等からみて著しく低額であつたため株主総会(昭和三八年一二月)に於いて昭和三七年一一月分まで遡及支給する旨の決議がなされそれに基き増額支給されたもので、右増額高は適正報酬で、法人税法第一三二条の“不当に減少させる”にあたらないという点にあつた。

しかるに原判決は<一>高田株式会社の昭和三七年度株主総会議事録に五〇〇万円の範囲内までの役員報酬額を承認する記載、<二>昭和三八年一二月の株主総会で役員報酬増額遡及支給の決議が適法になされている事実<三>会社の規模営業成績、同種会社との比較等からみて従来の役員報酬が一般の会社より著しく低額であつたこと等を認め乍ら唯右株主総会が決算期(毎年一〇月末日)以後においてなされた点及び従来、役員賞与がなされていなかつた点をとらえてこの役員報酬増額遡及支給は確定申告直前(確定申告毎年一二月末)の利益調節であり、実質は役員の期日賞与の性質をもつ、ところの法人税を不当に軽減させる行為であり、仮りに株式総会で適法に承認された遡及支給であつても、右決議は遅くとも決算期前に行なわれるべきで決算案承認のための総会(決算期後)においてなされるべきものでないとの見解を示した。

しかし右見解は明らかに法人税法の適用を誤つたものである。

第一に原判決は昭和三八年度には賞与が出ていない点をも考慮して本件増額分は実質は役員の期末賞与であるとしているが、しかし、高田株式会社では従来もその後も役員賞与を出していた事実はない。役員賞与を計上することなく而も役員報酬が著しく低額であつたことは会社が新興のため、つとめて経費を節約する趣旨でなされたもので、営業成績のよい会社(年利益三、〇〇〇万円)であつたことより、役員報酬の増額遡及自体は法人税法第一三二条の負担を不当に、減少させるものではない旨の証人小票会計士の証言もある如くである。

特に原判決が増額遡及び支給の決議時期が決算期の前後いずれかによつて法人課税上益金性をもつ役員賞与金であるかどうかの判決の基準としたことは明らかに形式的見解のそしりを免れ得ないものである。

法人課税上益金性をもつ役員賞与であるが、損金性をもつ役員報酬であるかはもつと実質的に評価されてしかるべきである。

すなわち(以下東京地方裁判所昭和三三年九月二五日判決理由を要約したもの)

(イ) 損金性をもつ支出は事業遂行のため通常かつ必要な費用でなければならず、会社が利益をあげた功労に報いるため利益の一部から役員に支給する賞与は、損金には含まれない。

(ロ) 定款又は株主総会で定められた報酬額の範囲内で役員に支給された金員は法人税の負担を不当に減少させるというような算段の事由のない限り、税法上もその事業遂行上通常かつ必要な費用であると推定すべきである。

(ハ) 株式会社の役員の報酬額について商法は定款にその額を定めなかつたのは株主総会の決議によつて定めることとし、役員が不当に高額の報酬をとつて株主に損害を与えることを防止しているが、その支給の時期及び方法等については別に規定を置いてはいない。

等によりするも、増額遡及支給の決議時期のみを問題として本件役員報酬を、役員賞与であると判断したことは明らかに法の適用を誤つたものというべきである。

(二) 公訴事実第二の関係

(1) 期末商品棚卸高(四六九、五〇〇円)

これは昭和三九年一〇月末頃、高田株式会社の名古屋の本社より東京支店へ発送した商品が偶々棚卸期日(一〇月三一日)に積送中で未だ東京支店へ在庫されていなかつたため、東京支店の従業員が過つて計上するのを怠つたものである。

この点については当時東京支店の主任であつた山之内英一の供述(検察官提出証拠目録請求番号八〇)にみえるところである。

すなわち同人によると一〇月三一日名古屋の本社から発送された商品は一一月一日東京支店に到着したもので、月末在庫が多いと本社でやかましいので各月末日付のものは翌月に記載していたのであつて一〇月末の決算期を特に意識して一一月にしたのではない。又納品書は本社から東京支店へ商品と一諸に送られこれによつて支店備付の仕入帳に記載していたものである。

(2) 期末商品棚卸高(一、一九五、〇〇〇円)

これは昭和三九年一〇月中旬頃旭洋株式会社へ返品されたもので仕入帳から返品分として除外すべきものを事務員の手落ちで同年一一月初頃返品扱いをなすに至つたものである。

従つて棚卸資産としては計上されなかつたものである。

そこで次年度期で、前年度期で計上されたままの買掛金と同額高で利益分(買掛金のマイナス)を計上してつとに修正を施し済みのものであつた。

第二情状について

(一) 公訴事実第一関係の売上高について

売上もれとして金二、〇七五、六〇〇円が計上されているが、これは次年度分への繰延べられ、そこで課税されているのである。

従つて全く脱税なされたとみるべきではなく少くとも次年度に於てその全額についての課税金はすべて支払われているのである。

(二) 発覚の端緒

昭和四〇年一月頃名古屋国税局により特別調査をうけた際偶々、経理主任の水野孝夫の使い込みが発覚し、その横領金は約八〇〇万円にのぼつた。

これは水野孝夫が架空仕入を勝手に水増していたものであり、これを機に高田株式会社が水野孝夫を告発するに至つた。

しかし水野孝夫が当局の取調べを受けるにつれ、水野の口から脱税の事実が明らかになり、昭和四一年五月、ここに国税局の査察を受けるという奇妙な結果をみるに至つたのである。

水野孝夫の質問てん末書検察官提出証拠目録請求番号(九二及び鬼頭元彦の検調同目録請求番号一一一)

(三) 脱税の動機

過少申告をなすに至つた理由としては、繊維業界には価格変動や流行の推移が激しく、殊に高田株式会社のような中小企業においては変動による影響を受けやすくこれに備えて普段より将来の変動を予測して社内資金の確保につとめて置く必要があつた。この対策としては極力経費の節減に務め、これによつて生じた資金(例えば役員に対する報酬の低額、賞与の皆無等)を利益の一部として課税の対象に入れるのはいかにも矛盾を感じていたものである。

勿論右のように節約して得た金はすべて預金として留保されて将来の変動に備えられていたのであり、右預金をもつて殊更不動産の取得、有価証券の取得、帳簿外の人件費、経費の支出等にあてられたことは全くなかつたのである。

(小栗証言および鬼頭絹子の質問てん末書検察官提出証拠目録番号九八)

(四) 脱税分の納付状況

公訴事実にある脱税分はすべて完納されている。

もつとも高田株式会社は加重な重加算税を法人税、県市民税により徴税された訳であるが、その総額四一、二六一、二六〇円も被告人鬼頭元彦等の異常な程の奔走により滞りなく完納されたものである。(納付状況説明資料、法人税領収書元本)。

(五) その後の会社の納税状況

昭和四十年一一月一日より、同四一年一〇月三一日までの事業年度では確定申告額五三、一一一、一五五円これに対する法人税額一四、九一六、〇六〇円を納入しており、その後今日まで国税当局からはなんの調査の対象とならず、今後も真面目に、納税義務を果そうとの態度をとることを誓つたところである。

(六) 現在の会社経理面の充実

高田株式会社は創業も比較的新らしく個人経営から出発した殆んど同族会社的色彩を有しているが、その営む既製服の生産販売の好調により会社の業績は、急速に伸長したものである。

すなわち、本件事件当時の従業員数は約三〇名足らずであつて経理に携さわれる事務員も二名程度であつたため会社の急増した取引需要の経理に手が行き届かなかた点もあつた。現在では従業員九〇名余を容し、又経理部を拡充強化して約一五名を配し増大した会社帳簿の確実な記帳会社収支の明確化を期しているものである。

(七) 結語

被告人鬼頭元彦は未だ若年ではあるがその経営手腕は定評があり、真面目な仕事振り、建設的な生活態度を有し、他から信望を集めているものである。

しかし何分にも創業も新らしい中小企業を殆んど一身に担つていたあせりから社内蓄積を短兵急計つて今回のような事件をひき起したものと思われる。

現在、被告会社は経理内容もよく既製品業界では頗る健実な企業と衆目から一致して認められているし、その信用度からみて今後も、増々発展するものと思われる。

ところで第一審判決では総額八〇〇万円にのぼる罰金刑を科せられたがこの罰金額は事件発覚後、被告会社が異常な程、重加算税の完納に努力した点を無視し、中小企業の不安定な状態をいささか等閑視した嫌いがあり、弁護人が主張した上述の諸事情を多少なりともしん酌して寛大な裁判を戴きたかつたものである。

なお、社長である鬼頭元彦は今後このような脱税事件は絶対おかさない旨誓約しているところであり、同人の性格からみて当弁護人も二度とかかる事件が繰返えされないものと確信しているところである。

以上の如く原判決はその量刑に当り判断をあやまつたというべくこれを破棄して寛大な判決を承わりたく右控訴趣旨の開陳と合せ上申する次第である。

以上

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